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タイトル:台湾「文創」と日本の地方創生の融合―高知県安田町中山地区における実践―
專題文章 ( 特集記事 )
學校(学校) | 高知大學 高知大学 作者(著者) | 赤池慎吾 准教授
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概要
本稿は、人口約420人に満たない高知県安田町中山地区における実践を通じて、台湾との連携が高知県の過疎地域における地方創生および関係人口の構築に果たす役割を検討したものである。台湾は日本と同様に地方創生を重視し、文化的親和性が高く、高知県には台湾との直行便が就航するなど持続的な関係が構築されている。本研究では、台湾の「文創」やUSRの視点を取り入れ、アートやデザインを活用した地域コミュニケーションの創出を試みた。さらに、大学を核とした国際連携により、学生の実践的学びと関係人口の拡大に寄与することが確認された。今後は、国際関係人口を視野に入れた制度設計、大学連携モデルの強化、アート・デザイン的手法の導入、受入体制の整備を通じて、持続可能な地方創生の実践を目指す。


圖:廃校の黒板に作品を描く学生(2025年10月12日著者撮影)

1.なぜ今、台湾とつながるのか?
 地方創生および関係人口の構築において、台湾との連携は重要な意義を有する。台湾は日本と同様に地方創生を政策的に推進しており、地域文化や地域資源への関心が高い。そのため、農山漁村や伝統文化に対する理解や共感を得やすく、観光にとどまらない継続的な関係構築が可能である。
筆者が特に注目しているのは、台湾各地で展開されている「文創(Cultural and Creative Industries)」である。これは地域固有の文化資源を活用し、アートやデザインなど創造的手法によって新たな価値を創出する取り組みである。この概念は、地域の魅力を再解釈し可視化する有効なアプローチであり、日本の地方創生においても応用可能性が高い。
また、台湾の大学・研究機関との連携は、地方大学にとって教育・研究の国際化を推進する重要な契機となる。また過疎地域にとっても、学生および研究者の交流により、多様な視点から地域課題を再検討することが可能となり、新たな知見や解決策の創出が期待されている。

2.地域の新しい挑戦と台湾「文創」の導入
高知大学は2014年以降、人口約420人の安田町中山地区と連携し、地方創生に関する多様な取り組みを継続してきた。教育・研究・社会貢献の機能を活かし、学生ボランティアの派遣や国際プログラムの実施、地域資源に関する調査研究などを展開し、地域との信頼関係を構築してきた(注1)。
2026年度、安田町からの受託研究事業「令和7年度高知県安田町中山地区魅力創造プロジェクト」の採択を受け、「人口約420人のコミュニケーションをいかにデザインするか」という課題設定のもと、地域内外の人々との関係性の創出に取り組んだ。ここでいう関係人口とは、単なる来訪者ではなく、継続的に地域と関わり、価値創出に寄与する人々を指す。
台湾のUSR(University Social Responsibility)および「文創」の考え方を参考に、アートやデザインを活用した地域づくりを実践した。これにより、地域資源の再解釈や魅力の可視化を図り、多様な主体の参加を促進することを目指した。

3.デザイン・アートを活かした関係人口の構築
近年、地方創生の文脈において「関係人口」の重要性が広く指摘されている。関係人口とは、移住者や観光客とは異なり、継続的に地域と関わりを持つ人々を指し、地域の持続的発展を支える新たな担い手として注目されている。この概念は、人口減少や過疎化が進行する地方において、従来の定住人口中心の政策を補完するものとして、その意義が増している。
こうした中で、デザインやアートは、地域の魅力や価値を可視化し、地域内外の人々の関心や共感を喚起する有効な手段として位置づけられている。特に、地域住民との協働による創作活動や表現は、単なる情報発信にとどまらず、地域資源の再解釈や新たな価値創出を促進する点において重要である。さらに、このような創造的プロセスは、参加者間の関係性を深化させる契機となり、結果として関係人口の形成および拡大に寄与する可能性を有している。
本研究は、過疎化と人口減少が進行する高知県安田町中山地区を対象に、「約420人のコミュニケーションをいかにデザインするか」という課題意識のもとで実施されたものである。特に、過疎高齢化が進む小規模地域においては、個々の関係性の質が地域全体の持続性に直結するため、コミュニケーションの設計は極めて重要なテーマである。
具体的な取り組みとしては、高知大学の学生2名が中心となり、廃校をリノベーションした安田町多目的交流センターなかやまを拠点として活動を展開した。施設内において制作されたアート作品は、「コミュニケーション装置」として位置づけられ、地域住民および日本遺産ミュージアム来館者に対して地域の魅力を伝達する役割を担った。これにより、作品を媒介とした対話や交流が生まれ、地域内外の人々をつなぐ新たな接点が創出された。
その成果の一端として、2025年12月14日に開催された「なかやま山芋フェスタ」において、日本遺産ミュージアム(施設2階部分)の来館者数が、1日としては過去最多となる170名を超えたことが挙げられる。来館者には地域住民に加え、その親族や出身者、さらには観光客も含まれており、本事業を通じて多様な主体が交差する交流の場が形成されたといえる。このことは、アートを活用した取り組みが、新たな関係人口の創出に寄与し得ることを示唆している。
次章では、本研究においてアート作品の制作に携わった学生2名の学びに着目し、地域との関わりを通じた教育的効果および関係人口形成への示唆について検討する。


圖:記念撮影する観光客(2025年12月14日著者撮影)

圖:作成者と住民との交流(2025年12月14日著者撮影)

4.学生の学びと実践的成長:地域との関わりから生まれた学び
4.1.岡林芽依さん(高知大学理工学部4年)
私は、2025年8月に高知大学が主催した台湾学生との合同実習でのフィールドワークをきっかけに、中山地区を地方創生の視点から学び始めました(注2)。当初は実習が終われば関わりも終わると思っていましたが、その後も黒板アート制作や地域活動への参加、さらには個人的な訪問を重ねる中で、地域とのつながりが継続していきました。
フィールドワークの最初は、どのように地域を理解すればよいか分からず不安もありましたが、実際に歩き、出会った方に挨拶することから始めました。そうした積み重ねにより、地域の方々との距離が少しずつ縮まり、自然や景色、人との交流を通して「心地よさ」を感じるようになりました。また、実習の最終発表では地域の魅力の伝え方に悩みましたが、「人の心を動かすにはエピソードが重要である」という助言を受け、体験をもとに絵本形式で表現しました。この経験から、地域の魅力は単なる情報ではなく、人の暮らしや物語として伝えることが重要であると学びました。
本プログラムを通して、地域を深く理解する力や、自分の感じたことを表現する力を身につけることができました。そして何より、一度きりではなく、継続して関わりたいと思える地域に出会えたことが、最も大きな学びでした。


圖:「ゆずマニアの部屋」制作中(2025年10月12日著者撮影)

圖:岡林さん(左)と野村さん(右)(2025年10月12日著者撮影)

4.2.野村牧世さん(高知大学教育学部1年)
私は2025年夏8月、台湾学生との合同実習で、初めて安田町中山地区を訪れました。7日間のフィールドワークを通して地域の方々と交流しながら、中山地区について少しずつ理解を深めていきました。
私は高知県出身で安田町に行ったことはありましたが、これまでは海沿いが中心で、山間部にある中山地区のことはほとんど知りませんでした。そのため、現地での体験はどれも新鮮な発見の連続でした。フィールドワークでは、地域の方々との交流を通して感じたことを紙芝居としてまとめました。この経験をきっかけに、「地域の魅力をどのように伝えるか」を考えるようになり、その後も中山地区に関わり続けたいと思うようになりました。
実習終了後も月に1回ほど中山地区を訪れ、黒板アートの制作や地域活動に参加しました。地域イベントや収穫体験などを通して、地域の方々と継続的に関わる機会を得ることができました。安田町中山地区で特に印象に残っているのは「食」の体験です。地域の方々と一緒に料理を作ったり、地元の食材を味わったりする中で、中山地区ならではの魅力を強く感じました。地域の飲食店で過ごす時間も大切な体験でした。地元の方と同じ空間で食事をすることで、その土地の雰囲気や人の魅力をより深く知ることができました。
実習からその後のアート製作までの約半年間にわたる経験を通して、地域の魅力や価値を実感しながら学ぶことができました。中でも、人とのつながりや食文化を通した学びは大きく、「また訪れたい」と思える地域に出会えたことが、私にとって最も大きな収穫でした。

5.製作したアート作品紹介と意見交換
本プロジェクトは、過疎化と人口減少が進む中山地区において、「約420人のコミュニケーションをいかにデザインするか」をテーマに掲げています。アート作品は安田町多目的交流センターなかやまに展示しており、地域住民をはじめ、来訪者が誰でも実際に鑑賞できる環境を整えています。
また、これらの作品をより広く発信するため、本事業では新たにウェブサイトを構築しました。作品を画像やデータとして蓄積・公開することで、地域外の人々にも安田町中山地区の魅力を伝えるとともに、新たな関心や関わりを生み出す契機となることを目指しています(注3)。
安田町中山地区の取り組みについては、台湾において積極的な情報発信を行った。2025年9月に台北市で開催されたUSR EXPOにおいて、日台連盟日本側加盟校を代表して出展し、安田町の実践を紹介した結果、多くの研究者および学生の関心を集めた。
また、台湾の研究者および大学関係者との連携強化を目的として、国立高雄科技大学、国立中山大学、中原大学、明志科技大学、逢甲大学、国立雲林科技大学、輔仁大学を訪問し、「地方創生」に関する意見交換および教育・研究連携の可能性について協議を行った。
その結果、国立中山大学および国立政治大学から具体的な連携の申し出があり、2026年6月には国立中山大学から14名の学生が訪問予定であり、同年7月には国立政治大学から14名の学生の訪問についても調整が進められています。


圖:ウェブサイトの紹介(QRコードからご覧いただけます) (2026年3月、著者作成)

圖:ウェブサイトの紹介(QRコードからご覧いただけます) (2026年3月、著者作成)

6.結論:台湾との連携を通じた更なる関係人口の構築に向けて
本研究を通じて、台湾との連携は、地方創生における関係人口の創出および拡大に対して有効であることが確認された。特に、台湾との文化的親和性の高さ、大学間連携の柔軟性、そして「文創」に代表される創造的手法は、日本の過疎地域においても応用可能かつ実践的で即効性のある知見を提供するものである。
また、国際的な学生交流や研究者間の連携は、地域に新たな視点や価値観をもたらすとともに、地域住民自身が自らの地域を再認識する契機となる。こうした相互作用は、一過性の観光とは異なり、地域と継続的に関わる関係人口の形成において重要な役割を果たす。
今後の展開に向けては、大学を核とした地域連携モデルの強化を検討したい。教育・研究・社会実践を統合した取り組みは、持続的な関係人口の創出に寄与する。そして、「文創」に代表するアートやデザインを活用した地域コミュニケーションの推進も積極的に検討していきたい。創造的手法は地域資源の再解釈と可視化を促し、多様な主体の参画を誘発する。このことは、継続的交流を支える受入体制の整備が不可欠であることを意味する。
以上より、本研究の台湾との連携を基盤とした実践は、「国際関係人口モデル」の一事例として位置づけることができるだろう。事例の限定性(他地域での通用可能性の有無)や効果の定量的評価の不足(長期的なデータの検証等)、受け入れ地域の持続可能性(地域の身体的心理的負担の軽減)はあるものの、今後はその再現性と他地域への展開可能性を検証しながら、関係人口の質的向上と量的拡大の両立を図ることで、引き続き台湾との連携を継続して持続可能な地域社会の実現に貢献していきたい。

謝辞
本研究は、安田町から受託した研究事業「令和7年度高知県安田町中山地区魅力創造プロジェクト」の成果の一部である。

参考文献・資料
1)高知大学による安田町中山地区に関する一連の研究成果については、下記を参照されたい。
  赤池慎吾(2021)「透過生命故事訪談調查進行「地方創生」:什麼是外來者才看得見的地方魅力?」『臺日聯盟電子報』Vol.1. https://tja.center/zh-TW/newsletter_units/1
2)高知大学が台湾協定校等と実践している「地方創生グローカル演習」については、下記を参照されたい。
  赤池慎吾ほか(2023)「日本學生在學生交流中學到了什麼?有什麼成長? 以高知大學「地方創生GLOCAL演習」為例」『臺日聯盟電子報』Vol.9. https://tja.center/zh-TW/newsletter_units/78
3)学生の製作したアート作品は、下記よりご覧いただけます。
『Lifehistory-kochi 振り返ればそこにある高知の暮らし』
https://lifehistorykochi.jimdofree.com/%E3%82%86%E3%81%9A%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A0/



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